0175|全米オープン 四回戦 vs ジュリアン・セラフィーニ

ジュリアン・セラフィーニ。スイス人。二十九歳。

「試合を描く」と言われる選手だった。

スピンの技術と緩急の巧みさで相手を崩す、静かな芸術家。勝利よりも美しいテニスに価値を置くとよく言われた。だが、それはつまり、美しいテニスで勝つことを、彼は信じていたということだ。

試合は、アーサー・アッシュ・スタジアムで行われた。

夕方に近い時間。空が少しだけオレンジに滲み始めていた。

セラフィーニは、コートに立ちながら、静かに対戦相手を見た。

九条雅臣。

その目には、感情がなかった。

怒りも、緊張も、喜びも、高揚感もない。

ただ、静かに前を向いている。

セラフィーニは、その静けさの中に、何かを感じた。

第一セット。

セラフィーニは持ち前の緩急で試合を組み立てようとした。ショートクロスで引き出して、逆を突く。スピンをかけて深く押し込み、前に出る隙を作る。

だが九条は、読んでいた。

すべてのパターンを、一手前から読んでいた。

セラフィーニが描こうとした絵は、完成する前に崩された。

6−4。

第二セット。

セラフィーニは変えた。もっと深く、もっと丁寧に組み立てた。七ゲーム目でブレークに成功し、タイブレークへ持ち込んだ。

スタジアムが静かに沸いた。

だがタイブレークに入ると、九条は切り替えた。

セラフィーニには分かった。

この人は、ここからが本番だ。

七対四。

タイブレークを制した九条が、静かにタオルを取りに行く。

第三セット。

セラフィーニは最後まで美しく戦った。

だが九条は、もう別の場所にいた。

6−2。

試合終了。

ネット前で握手を交わす瞬間、セラフィーニは九条の目を見た。

そして、静かに言った。

「君のテニスには、神が宿っている。完璧すぎて、触れられなかった」

九条は、無言だった。

だがわずかに、頷いた。

そして静かに、頭を下げた。

その言葉は、ロッカールームに戻ってからも、ずっと九条の中にあった。

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URB製作室

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