2025年6月– date –
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Roland Garros
0158.【Roland Garros】未来は、まだここにある
〈十五日目〉 担当医が告げた。 「CK値、正常域に入りました」 正常域。 百二十倍から、十五日。 九条は、その数字を一度だけ見て、立ち上がった。 〈十七日目〉 緑の、匂いがした。 芝の、あの匂いが。 ここはロンドンではない。フランスの練習施設の、室... -
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0157.【Roland Garros】また、立てた
〈急性期〉 最初に気づいたのは、色だった。 点滴のラインが腕に刺さったまま、看護師に促されてトイレへ向かう。 便器の中に、見知らぬ色があった。 暗い、赤茶色。 医師が言った。 「筋肉の色素が、腎臓を流れています。 横紋筋融解症です。 輸液を続... -
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0161.【Roland Garros】また会うための、さよなら。
〈七日目の朝〉 七日目の朝。 あっという間だった、とも長かった、とも言えなかった。 ただ、静かな日々が、確かにそこにあった。 朝の光は、どこか切なく、静かだった。 九条雅臣は、ベッドに腰掛け、ゆっくりと窓の外を眺めていた。 澪は、小さなスーツ... -
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0160.【Roland Garros】ちゃんと、食え。
〈6月11日・朝〉 ルームサービスの朝食が、テーブルに並んでいた。 バゲット。クロワッサン。ハムとカマンベール。グレープフルーツジュース。 九条はバゲットをちぎりながら、静かにジュースを飲む。 澪は、クロワッサンを一口食べて、手を止めた。 窓の... -
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0159.【Roland Garros】となりにいる
〈6月10日・午前〉 九条がリハビリに向かった後、澪はホテルの部屋に戻った。 白いシーツ。静かな空気。 何もしないのは、落ち着かなかった。 気づいたら、MacBookを開いていた。 Palmaのフォローアップ。返信待ちのクライアント。Gdańskの工場からの仕様... -
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0156.【Roland Garros】おかえりなさい
〈パリ アメリカン・ホスピタル 病室前〉 澪は、そっとドアを押し開けた。 静寂が、そこにあった。 薄暗い病室の奥、白いシーツに包まれた九条雅臣が、静かに横たわっている。 点滴、モニター、呼吸器のわずかな機械音だけが、生命のリズムを刻んでいた... -
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0155.【Roland Garros】迷わなかった
〈日本 東京 深夜2時すぎ〉 着信音が鳴った。表示されたのは――九条雅臣の名前。 一瞬、心臓が跳ねた。でも、受話器越しに耳を澄ませても、そこに、九条の声はなかった。 「……雅臣さん?」 呼びかけても、答えはない。ただ、どこか遠い、機械音と人の気配... -
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0154.【Roland Garros】澪、と呼んだ
〈コート・フィリップ=シャトリエ 控室 朝〉 九条は、ぼやけた視界の中に、影を見た。 誰かが、そこに、いた。 遠い。けれど、確かだ。 声は、聞こえない。動く音も、ほとんど感じない。 それでも、その「気配」だけは、はっきりとあった。 九条は、無... -
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0153.【Roland Garros】指先が、動いた
〈コート・フィリップ=シャトリエ 控室 深夜〉 空気の温度を感じた。 肌を撫でる、微かな風。換気扇の回る音。誰かが歩く、遠い足音。 世界が、まだぼやけたまま、かすかに輪郭を取り戻していく。 九条は、重たいまぶたの裏で、光を探していた。 やがて... -
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0152.【Roland Garros】声だけが、届いた
〈コート・フィリップ=シャトリエ 控室〉 カーテンが閉ざされた室内。外の歓声は、もう聞こえない。 九条は、ベンチに座ったまま動かなかった。 ジャージを肩まで羽織らされ、濡れたシャツは脱がされ、スタッフの手で身体を冷却される。 呼吸が浅い。視...
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