四日目の朝、また何かが変わっていた。
「不登校」という事実に、憶測が貼りつき始めていた。
「不登校の理由、妊娠じゃないの」「当時の彼氏に捨てられたって聞いた」「だから今も年上の有名人に依存するんだ」
すべて、根拠のない話だった。
でも澪には、否定する場所がなかった。否定すれば、さらに拡散する。黙っていれば、認めたと読まれていく。
どちらに動いても、傷が深くなる。
会社から連絡が来た。
「しばらく外回りは控えてほしい」
上司の声は穏やかだった。だからこそ、その言葉の重さが分かった。
サンリーフは信頼が第一のブランドだ。超富裕層を相手にする仕事は、担当者のイメージと切り離せない。「スキャンダルになった人」という烙印は、会社のブランドにも傷をつける。
カンヌで会えなかったクライアントから、担当変更の打診が来ていた。三年かけて築いた関係だった。
夜、帰宅しても何も喉を通らなかった。
サブスクで過去の試合アーカイブを開いた。画面の中で、九条が戦っていた。全豪、全仏、ウィンブルドン。どの試合も、彼は壊れなかった。
それに比べて、私は——
(私は、汚い)
そんな言葉が、自然に浮かんできた。
(私はきっと、彼に捨てられる)
必要最小限のものしか置かない彼が、スキャンダルを起こした女をそばに置いておくはずがない。
「……一人で生きていけると思ってたのにな……」
誹謗中傷では泣けなかったのに、彼がいなくなった世界を想像した瞬間、涙が止まらなくなった。
彼がいない世界は、怖い。
どうしようもなく、怖くてたまらなかった。
(もう、消えてしまいたい)
その言葉だけが、静かに心に沈んでいった。
それが、四日目の夜だった。
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