0183|澪の五日間 四日目

四日目の朝、また何かが変わっていた。

「不登校」という事実に、憶測が貼りつき始めていた。

「不登校の理由、妊娠じゃないの」「当時の彼氏に捨てられたって聞いた」「だから今も年上の有名人に依存するんだ」

すべて、根拠のない話だった。

でも澪には、否定する場所がなかった。否定すれば、さらに拡散する。黙っていれば、認めたと読まれていく。

どちらに動いても、傷が深くなる。

会社から連絡が来た。

「しばらく外回りは控えてほしい」

上司の声は穏やかだった。だからこそ、その言葉の重さが分かった。

サンリーフは信頼が第一のブランドだ。超富裕層を相手にする仕事は、担当者のイメージと切り離せない。「スキャンダルになった人」という烙印は、会社のブランドにも傷をつける。

カンヌで会えなかったクライアントから、担当変更の打診が来ていた。三年かけて築いた関係だった。

夜、帰宅しても何も喉を通らなかった。

サブスクで過去の試合アーカイブを開いた。画面の中で、九条が戦っていた。全豪、全仏、ウィンブルドン。どの試合も、彼は壊れなかった。

それに比べて、私は——

(私は、汚い)

そんな言葉が、自然に浮かんできた。

(私はきっと、彼に捨てられる)

必要最小限のものしか置かない彼が、スキャンダルを起こした女をそばに置いておくはずがない。

「……一人で生きていけると思ってたのにな……」

誹謗中傷では泣けなかったのに、彼がいなくなった世界を想像した瞬間、涙が止まらなくなった。

彼がいない世界は、怖い。

どうしようもなく、怖くてたまらなかった。

(もう、消えてしまいたい)

その言葉だけが、静かに心に沈んでいった。

それが、四日目の夜だった。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

URB製作室

コメント

コメントする

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください。