〈センターコート・表彰式〉
「Ladies and gentlemen――
your 2025 Wimbledon Gentlemen’s Singles Champion…」
歓声が沸き上がる。
「Masatomi Kujo!!」
九条は、ゆっくりと一歩を踏み出した。
白いウェア。芝の緑。空の青。
その中を、ただ静かに歩く。
「Congratulations, Mr. Kujo. How do you feel, standing here today as the champion?」
(おめでとうございます、九条選手。今日、ここに立って、どんなお気持ちですか?)
九条は、静かに答える。
「I am… simply grateful. For the grass, for the people, and for being able to be here today.」
(私は……ただ、感謝しています。この芝に、支えてくれた人々に、そして、今日ここに立てたことに。)
「And what does this victory mean to you?」
(この勝利は、あなたにとって、どんな意味を持ちますか?)
九条は空を仰ぎ、そして言った。
「It means… I can keep running. Toward the future I believe in.」
(それは……私が走り続けられるということです。自分が信じる未来に向かって。)
トロフィーが九条雅臣の手に渡る。
高く掲げることはせず、胸の前で静かに抱き締めた。
誇りでも、支配でもない。
これは、未来を走るための静かな証だった。
〈記者会見スペース〉
表彰式の後、九条雅臣はセンターコート脇の記者会見スペースに現れた。
白いウェアのまま、汗に濡れた髪をタオルで拭きながら、静かに椅子に腰掛ける。
「Congratulations, Mr. Kujo, on your first Wimbledon title.」
(九条選手、ウィンブルドン初優勝、おめでとうございます。)
九条は、一礼で応えた。
「If you could, we’d like to ask――is there anyone you would like to dedicate this victory to?」
(よろしければ、お伺いしたいのですが――この勝利を捧げたい方はいらっしゃいますか?)
一瞬、会場が静まる。
カメラのレンズが、九条を捕らえる。
九条雅臣は、ごく短く息を吸い、
そして、静かに答えた。
「I dedicate it――to the road I’ve walked, and to everyone who fought alongside me, even from afar.」
(これまで歩んできた道、そして、遠くで、共に戦ってくれたすべての人たちに捧げます。)
翻訳が流れた瞬間、会場から柔らかな拍手が広がった。
記者たちは、さらに深く詮索しようとはしなかった。
それだけで、この男が何を背負い、何を守ろうとしているか――十分すぎるほど、伝わったからだ。
九条雅臣は、そのまま、静かに一礼した。
未来へ。
振り返らずに、進むために。
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