〈7月11日・深夜・選手専用レジデンス〉
準決勝が終わった夜、
ロンドンはまだ静かだった。
澪は、部屋に荷物を置いてから、
九条のいる階へと向かった。
何かをしに来たわけではない。
ただ、いたかった。
それだけだった。
九条は、ドアを開けたまま澪を迎えた。
言葉は少なかった。
でも、それでよかった。
この二人の間には、
埋めなければならない沈黙などない。
澪は九条の横顔を見ながら、
ずっと思っていたことを、静かに確かめた。
(生きてる。)
(ちゃんと、ここにいる。)
夜が深まるにつれ、
二人の距離は、少しずつ縮まっていった。
互いを守るために。
互いを信じるために。
その夜のことは、
言葉では語らない。
ただ、確かに――
二人の間に、新しい何かが生まれた夜だった。
この夜の続きは、BOOTH短編にて。
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〈翌朝・7月12日〉
目覚めの気配と、
昨夜の余韻が、まだ身体の奥に残っている。
澪は枕に頬を預けながら、
そっと目を細めた。
胸の奥にある感情は、
熱ではなく、もっと静かな何かだった。
安心。
あるいは、信頼。
それとも、もっと名のない温度。
九条が、そっと毛布を引き寄せて
澪の肩を覆う。
その動作ひとつで、
言葉より多くのことが伝わってくる。
外は、ようやく朝の光が街を包み始めていた。
――この静けさが、いつか消えてしまっても。
今ここにある温度だけは、
きっと、ずっと覚えていると思った。
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