0166.【Wimbledon】怪物と、呼ばれても。

〈7月2日・No.1コート〉

No.1コートの空気は、
センターコートとは違う、
どこか剥き出しの熱を帯びていた。

芝の匂い。
乾いた歓声。
夏の光が、白いウェアを照らす。

九条雅臣は、
そこに立っていた。

無言で、
無表情で。

対戦相手は、
荒々しいパワープレーヤー。
若さゆえの勢いに任せたショットを、
容赦なく叩き込んでくる。

だが、
九条は動じない。

一歩、二歩。
正確にポジションを取り直し、
次の瞬間、
完璧なカウンターを打ち込んだ。

相手が吠える。
観客席がどよめく。

それでも、
九条は、
ただ静かにラケットを握り直しただけだった。

第1セット、6-3。

第2セット、6-2。

第3セット、6-1。

スコアは、
九条の圧倒的な支配を物語っていた。

だが、
試合が進むごとに、
観客席のざわめきは変わり始めていた。

賞賛でも、驚嘆でもない。

――畏怖。

「人間じゃない」
「感情がない」
「まるで怪物だ」

そんな囁きが、
静かに、
しかし確実に、
世界中に広がり始めていた。

試合後、
九条は控え室へと引き上げる途中、
ふと空を仰いだ。

青い空。
白い雲。

遠い日本の空と、
どこか似ている気がした。

何も言わない。
何も求めない。

ただ、
ひたすらに勝ち続ける。

その先に――
きっと、
誰かが待っていると、
信じて。

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URB製作室

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