本編– category –
-
Madrid
0133.【Madrid Open | Final】Campeón
画面の中で、ルーカス・ヴォルが静かに話していた。 マドリードの準々決勝後の記者会見。勝利の直後に、彼は自分の話をした。今年の精神的な苦しさ、助けを求めたこと、同じ道を走り続けて景色が変わらなくなった感覚。劇的に語ろうとしていなかった。ただ... -
Madrid
0132.【Madrid Open | Semifinal】Ganaste
前夜の解析 マドリードの夜は遅くまで騒がしい。 ホテルの窓の下、広場のテラス席からギターの音と笑い声が断続的に上がってくる。九条雅臣はカーテンを閉めた。外の音はBGMにもならない、ただのノイズだった。 スイートルームの中央に置かれたテー... -
Madrid
0131.オークウッドの窓から
オークウッドの朝 カーテンを開けると、海が広がっていた。 横浜港の水面が、朝の光をさわさわと返している。遠くにベイブリッジのシルエット。コンテナ船がゆっくりと動いている。 澪はそれを、特別な感情もなく眺めた。 良い部屋だと思う。海側で、高層... -
序章
0006.「三年と一隻」― エルクル港
Scene 12|エルクル港近くの路地、夜 その日の夜、全ての手続きが完了したのは午後九時を回ったころだった。 造船所側の代理人との最終書類確認、引き渡し証明、九条名義への正式な所有権移転。一つ一つを処理し終えると、澪は宿に戻る前に港の近くのデパ... -
序章
0002.「三年と一隻」― 封鎖前夜
Scene 3|グダニスク・造船所、2019年12月下旬(ビデオ会議) Sunreef Yachtsのグダニスク本社に接続したビデオ通話の画面に、顔の横に白髪が混じった大柄な男が映った。 「Jan Kowalskiです。製造ラインのリードをしています」 「綾瀬澪です。担当エージ... -
序章
0003.「三年と一隻」― 迂回路
Scene 5|横浜オフィス、2020年3月——通達 世界が止まった、と気づく前に、氷川からメールが届いた。 件名に余分な言葉はなかった。「納期について」。 澪は開封する前に、一秒だけ息を止めた。 内容は三行だった。 『Sunreef社より、電子部品の調達遅延に... -
序章
0004.「三年と一隻」― 氷川の刃
Scene 8|横浜オフィス、2020年6月——上層部の介入 グダニスクとのスロット交換交渉がまとまって三日後、有本に呼ばれた。 いつものデスクではなく、会議室だった。そして有本の隣に、営業本部長の立花が座っていた。 立花は五十代で、白髪交じりのこめかみ... -
序章
0005.「三年と一隻」― 白鳥の足
Scene 10|横浜オフィス、夜——白鳥の足 プレゼンから法務対応の初回確認、造船所への連絡、氷川への覚書草案の送付——全てのタスクが終わったのは、夜の十一時を回ったころだった。 フロアの電気が半分落ちている。誰もいない。澪は廊下の突き当たり、無人... -
Miami
0110.記録されない声
氷の理性、揺らぐ影 会議室のスクリーンに、ロシア人選手の映像が映し出されていた。 アルチョム・レフチェンコ。 典型的なスラブ系の骨格を持つ男だ。 顎はしっかりと張り、フェイスラインは角ばっている。 頬骨がやや高く、額は広い。鼻筋が通っており、... -
Miami
0111.息をするためのテニス
影に慣れた者 午後の風は湿っていて、どこか重たかった。 九条は、淡々とサーブを繰り返していた。 乾いた打球音だけが、静かな空気を切り裂いていく。 観客も報道もいない。ただの練習。 それでも、その静けさの奥には、張り詰めた集中があった。 遠くか...