本編– category –
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Kyoto
0118.嵐山 星のや
春の回廊を抜けて 16:00前、「花桜テラス」へ向かう回廊には、春の光がやわらかく差し込んでいた。 川沿いの風が障子の隙間を抜け、桜の香りが微かに漂う。 澪は淡い色のワンピースに着替えていた。 少年の面影はもうどこにもない。 頬に陽が落ち、肩先の... -
Monte Carlo
0119.赤土の呼吸 — Breath of Clay —
赤土、王が歩く場所 モンテカルロの空は、異様に青かった。 陽射しは強いのに、空気は乾いている。 海沿いの街並みの先、モンテカルロ・カントリークラブの赤土が淡く光っていた。 九条は、無言のままクレーコートに立った。 踏みしめた瞬間、靴底が「ザリ... -
Monte Carlo
0120.生き残るテニス
円が戻りかけた瞬間 サーブに入る前、九条は一度だけ目を閉じた。 深呼吸ではない。 意識的なリセットでもない。 ただ、身体から不要な力を抜くための、ごく短い“間”。 (……急ぐな。) 蓮見の言葉を思い出したのではない。 身体のほうが、勝手に拾った。 ... -
Monte Carlo
0122.【Monte-Carlo Masters | Quarterfinal】赤土が試すもの
見えない乱れ リベラがベンチに腰を下ろすと同時に、 背後の指定エリアで、コーチのカルロスが一歩だけ前に出た。 声は出さない。 代わりに、指を二本、低く動かす。 ――テンポを落とすな。 ――前に出ろ。 リベラはタオルで顔を拭きながら、視線だけで応じる... -
Monte Carlo
0121.削り合いの始まり
プロの朝は、何事もなかった顔で始まる 翌朝、九条は何事もなかったように目を覚ました。 枕元に残っていた重さや、昨夜の空白は一切見せない。 いつもの呼吸で上体を起こし、そのままバスルームへ向かう。 シャワーの音が短く響き、数分もしないうちに止... -
Madrid
0126.許可された異常
帰ってこない王者 控室に戻った瞬間、九条の周りにチームメンバーが駆け寄ってくる。 「大丈夫か!?」 「意識は!?」 「どこも怪我してないか?骨や筋肉に異常は」 九条の目はどこも見ていない。ただ立っているだけだ。表彰式も、トロフィー授与も全く喜... -
Madrid
0128.愛を抱く者、無を纏う者
触れてはいけない深層 翌朝。 九条は、決まった時間に目を閉じた。 朝の瞑想。 かつては、集中に入りやすくするための儀式だった。 試合前に心を整え、余計な雑音を切り捨てるためのもの。 今は違う。 入るためではなく、入っても戻れるようにするため。 ... -
序章
0001.「三年と一隻」― 受注
Scene 1|横浜・オフィス、2019年12月 神奈川県横浜市。みなとみらいを望む中層ビルの一角に、澪が勤める海洋レジャー専門エージェンシー「マリン・アセット・パートナーズ」の事務所はある。窓の外には鉛色の冬の海が広がり、遠くにベイブリッジのシルエ... -
Madrid
0129.感情を預けた怪物
感情なきノート 試合が終わったあと、九条は一切の余韻を持たなかった。 歓声も、拍手も、結果の数字も、彼の中には入ってこない。 あの空間はすでに終わっている。 まず、軽く身体を動かす。 呼吸を整え、心拍を通常域に戻す。 痛みも疲労も、評価対象に... -
Madrid
0130.【Madrid Open | Quarterfinal】生けるAI
前夜 九条雅臣と明日、対戦する。 その事実に、胸は騒がない。 緊張も、高揚もない。 恐れていないからだ。 彼は完成度が高い。 動きは合理的で、判断は一貫している。 勝利から逆算された設計図の上を、迷いなく歩く男。 だがそれは「強さ」ではなく、そ...