45.Trigger

彼の世界へ戻る

スタッフの方に、もう一度レジデンスまで送ってもらって、またあの地下駐車場に帰ってきた。

自分で車を降りようとしたけど、車のドアハンドルがあまりに磨き上げられていて、指紋をつけることに躊躇した。

普段からこの車に乗るような人は、きっと自分でドアを開けたりしないんじゃないか。そう思った。

今だけは、私はこの世界に置いてもらっている。

仮初の世界だ。

それでも、拒絶されなかったんだから、この時間を楽しもうと思った。

大人しく待っていたら、運転席から降りたスタッフの方(名前をそろそろ聞こうかどうか迷ってる)にドアを開けてもらえた。

当たり前の動きとして、トランクから荷物を下ろしてもらい、それはそのまま持ってもらえる。

彼は、私が九条さんの客だから、こういう待遇をしている。

そうじゃなければ見向きもしないだろう。

仕事だから、こうしてるだけだ。

でも今は甘えさせてもらう。

来た時と同じようにエレベーターに乗って、カードキーをかざしただけで、この動く箱は上にあがっていく。

その間も世間話は一切ない。

この人から聞いた「時間の使い方」の話が、耳に残っていた。

一応、私だってそれなりに本も読んだし、その中には、世界の富裕層の考え方に関する本もあった。

時間を少しでも有効活用できるように、家には洗濯乾燥機も食洗機もロボット掃除機もある。

それでも私の生き方や生活そのものが大きく変わるわけじゃない。

まさか毎日の洗濯をランドリーサービスに頼むとまでは、考えられなかった。

洗濯機で洗えば良くない?って考えてた。

「ここにいて良いということは、ここのサービスを使うことを含めて許可されている」ということ。

ここに着いてから、何をするにも怒られるんじゃないか、相手を不快にさせるんじゃないかといちいち怯えていたけど、”この世界の住人”は、そんなちっぽけな事でいちいち目くじらを立てたりしないのだ。

その代わり、切り捨てる時は早い。

自分たちの世界に住まわせるのは、選ばれた人だけ。最初から同じ世界に住んでいる人だけ。

そういう世界だ。

仮初の世界のルール

エレベーターが到着した。

何階かは分からないけど、たぶんここはペントハウスだ。

常にここを押さえているのか、使いたい時にすぐ使えるようにしてあるのか分からないけど、急な帰国になっても、この家はベストな状態で住民を迎えてくれるのだろう。

「ありがとうございます。ここからは自分で持ちます。すぐそこなので」

この人はたぶん、この入り口の部屋から奥へ入れない。

緊急時以外は奥への入室を許されていない。

だから、エレベーターを降りてから、片手を差し出した。

客人に荷物を持たせることと、奥へ入室はできないという条件が葛藤を生んだだろう。

庶民は自分の荷物は自分で持つんですよ。

そういう目で相手を見た。

観念したのか、荷物を渡してくれた。

「…ずっと待機してるんですか?」

素朴な疑問だけど、気になったから尋ねてみた。

「……そうですね。ですが、待機時間も報酬に含まれていますので」

彼は表情を崩さず、感情を込めず、事実として答えた。

その声の奥にほんのわずか

「庶民の感覚で心配されても困る」

というニュアンスが滲んでいた。

「ご心配なく。私たちは、待つことを仕事にしているので」

と言って、静かに一礼した。

 

ー仕事だから。

ー待機は契約のうち。

ー気にするな。

という冷静な返し。

 

“私たち”とは、彼の周りにいるスタッフ達はみんな、という意味だろう。

私は、その中には当然含まれていない。

 

「…なるべく、ご迷惑をおかけしないようにします。何日か、お世話になります」

そう言って頭を下げてから、その場に背を向けた。

別に返事を求めていたわけじゃない。

私が”彼ら”にとって部外者なのは分かってる。

いていい、いてほしいって言われたから、許される限りはここにいるだけ。

孤独を常態化させた人のそばで

ヒールを脱いで、端に揃えて、荷物を持って室内に入って行った。

大型の荷物を置く場所?があったから、そこにバッグを置かせてもらった。

先にコートを脱いで、クローゼットのハンガーにかける。

九条さんは私が帰ってきた事にはたぶん気付いてるだろうけど、出迎えには出てこない、たぶん。

プライベートだとめちゃくちゃ省エネモードに入ってるみたいだから。

だから、私も好きに動かせてもらう。

そうしても怒らない、不愉快にならないって分かったから。

九条さんを探したら、ソファがある部屋にいた。

ここを出る前とは違う服に着替えていた。

ちゃんとお風呂入ったみたい。

でもたぶん、出る時に「お風呂入っててね」って言わなかったら、入らずに待ってたんじゃないか。

だって、今も手にスマホも本も何も持たずに座って待ってる。

お風呂に入って、待つ。

っていうコマンドを実行した。

その先の命令がまだ無いから、そこでスタンバイモード。

普段どうやって生活してるんだ、ってなるけど、今は私というイレギュラーな存在が入り込んだことで、どうしていいか分からなくなってる。

それくらい、普段の生活の中で孤独が常態化している。

孤独を孤独だと感じない生活をしていた。

そこに初めての人間が入り込んで、誤作動を起こしてる。

でも誤作動の原因を排除しようとしない。

それが自分の中で矛盾を生んでいる。

「ただいま帰りました」

私が帰ってきたことは気付いてるだろうけど、あえて声を掛けた。

人間って、そういうことをするものだから。

「……ああ」

物凄く簡潔な返事。

「お風呂、ちゃんと入ったんですね」

負けずに会話を続ける。もうあなたの省エネには慣れました。

「入れと言われたからな」

あ、でもちょっと彼も慣れてきたっぽいな。

言葉に少しリラックスが含まれてる。

というか、私達今日初めて会ったのに、なにこの熟年夫婦みたいな会話。

別にいいけど、ここに来る前に感じてたドキドキどこいった。

「私もお風呂入ってきます。お風呂どこですか?」

「………奥、右手」

なんか、今ちょっと違和感ある”間”があった。

案内しようとした?

でも結局やめた?

九条さんは私とのやりとりの中で、他人との「距離を測り方」を試行錯誤してるみたい。

その「試す」「テストする」という行為すらも、ここに来た最初はしなかった。

私を試してるんじゃなくて、私との関わり方を探してる。

関係が一つ前進してる。

今日はどこまで行けるかな。

 

「じゃあ、行ってきます」

九条さんに小さく笑顔を向けてから、お風呂に向かった。

でも、そこにあったのは寝室だった。

ベッドがある部屋。

…?

間違え、はしないだろう。

部屋の中に入って辺りを探すと、ベッドルームから繋がる部屋にバスルームがあった。

…もしかしてここゲストルーム?

部屋に別々でお風呂がついてるってこと…?

この家、バスルーム何個あるの?

この部屋についてるバスルームも高級ホテル並みに綺麗で広い。

トイレも洗面もある。

この部屋から出ずに生活できるくらい。

家にお風呂は1つ、って思ってた固定観念が壊された。

私はつくづく庶民なんだな、と思いながらバッグをこっちまで持って来た。

この部屋に全て置いておけば良い。

バッグからスキンケア用品と、あとパジャマを取り出す。

無印良品のやつ。

あったかくて肌触りが良くて気に入ってる。

ここのレジデンスは機密性が高くて全然寒くないから、冬用じゃなくてもいけるかも。

こういうとこに泊まるセクシーな女性はバスローブとか着てお風呂から出てくるんだろうか。

もしくはジェラピケ着る可愛い系の女子か。

どちらも私はガラじゃない。

九条さんが和食なのに、わざわざ自分のカトラリーを取ってきたように、私も使いやすい物を使う。

普段使ってるものをここで使う。

そうやって、なるべく自分が楽に過ごせるようにする。

むしろそうするべき。そう感じた。

ちなみにドライヤーも家で使ってるやつを持って来た。

ありそうだなーって思ったけど、一応。

お風呂っていうよりバスルームって感じの場所に入ると、やっぱりドライヤーはあった。

なんか高そうなやつ。

どっちも使ってみて、良さそうな方使おう。

ヘアケア大事。

でも九条さんはたぶん、このドライヤーの価値は分からないし興味無い。

シャンプーとトリートメントもそのまま持って来た。重いけど好きなやつだから仕方ない。

詰め替えたら滞在日数によっては足りないから。

備え付けのやつって大体髪がパサパサになるから好きじゃない。

こういう高級なとこだったら良いやつ置いてるのかなーとも考えたけど、さすがに美容院ほどではない、はず。

液体のボトル類を出したから、バッグがだいぶ軽くなったはず。

あとは服とか下着類と、化粧品。

化粧品もフルセット持って来た。

明日仕事だし、何なら週末にリモートで顧客対応が必要かもしれない。

Sunreefの購入客は富裕層ばかりだから、一般的とは違う生活をしている人もすごく多いし、言い方は悪いが我儘な事を言う人も結構いる。

ーーー彼を含めて。

彼らは自分がそういう待遇をされることに慣れていて、当たり前だと思ってる。

まあ、こちらもそれなりの金額をいただくので、それに見合った”特別な対応”はさせていただく。

それが私の収入に繋がってることも間違いないし。

お風呂に入って、保湿して、髪も乾かした。

置いてあった高そうなドライヤーを試しに使って見たら、風量が強いのに髪がまとまった。手触りも良い。本体も軽くて持ちやすい。

これどこのだろ?

後で調べよ。

時計を見たら、21時を回ったところ。

結構遅い時間だ。

九条さんはオーストラリアからこっちに来たばかりだし、疲れてるかも。

聞いてみよ。

ゲストルームには、冷蔵庫まであった。中を開けたら、ペットボトルの飲み物がいくつか入っている。

本当にホテルみたい。

中からお水を取り出した。お風呂上がりで喉が渇いた。

九条さん、もう寝たかな。まだ起きてるかな。

試される距離、前進する関係

スリッパを履いて、さっきのソファーがある部屋に戻ってみた。

まだ九条さんはそこにいた。

変わらずスマホも本も持ってない。テレビもつけてない。ぼんやりとどこかを見つめていた。

退屈じゃないのかな。

声をかけようとしたら、その前に私の気配を察して、こちらを見た。

「…そろそろ眠い?」

色々話しかけるより、単刀直入に聞いた方が良いと思った。

こちらが質問したことに答えるから、雑談を挟むより、すぐ聞いた方が望む返事が出てくる。

「…お前は?」

自分の感覚や状態よりも、私を優先してる。

自分がどうしたいかよりも、私への気遣いが勝ってる。

ー優しい、でも危うい。

ソファに座る九条さんの真正面に立って、頬に手をそっと当てた。

温かい。柔らかい。綺麗な肌。

画面越しに見てると冷たく見えたけど、ちゃんと熱がある。

 

「聞いて。私、あなたに触れたいって言ったけど、あなたの体調や予定を無視して進めたいわけじゃない。

疲れてて眠いなら、今日は寝て。明日の夜も私はいるし、時間はちゃんとある。焦る必要ない。

私の意思じゃなくて、あなたの状態を優先して。

疲れてるけどまだ耐えられる、じゃなくて、まだ起きていたいかどうか。

今日触れたいかどうか。それを基準に考えて。

多分、最低でも2時間はもらうことになるから。教えて」

支配者のスイッチオン

ー沈黙。

今までで一番長い時間だったかもしれない。

長く感じただけかもしれない。

九条さんが目を伏せると、睫毛がよく見える。長くて、本数が多い。羨ましい。

「……2時間か」

そう呟いた声は、今までとちょっと響きが違った。

さっきまでみたいな無機質な声じゃなくて、もっとお腹の底に響く声。

呼吸が少し深くなった。

「……いいだろう」

空気が変わった。彼の周りが、じゃない。部屋の空気全体が変わった。

目が合った瞬間、心臓が急に鼓動を鳴らした。目つきが、さっきまでより少し鋭さを帯びている。

九条さんがゆっくり立ち上がっても、視線を逸らせなかった。

手首が、握られる。力は強くない。でも拒否させない空気。

「支配者」。

試合で実況の人がよく言っていた単語を思い出した。

実際に会ったら全然そんなことないじゃん、なんて考えた私が甘かった。

彼はただスイッチを切っていただけだ。

モードを切り替えてただけ。

対戦相手の人は、ずっとこの空気に当てられていたのだ。

息が上手くできなくなる、動悸がずっと激しくなる、空間全部が塗り替えられる、この空気に。

それで観客は静まり返っていたのだ。それを今更理解した。

全豪2回戦の時、動揺して汗が止まらず、ベンチで項垂れていた選手を思い出した。

でも、多分もう遅い。

 逃げられない部屋へ

九条さんは、私の手を引いて、違う部屋に連れて行った。

心臓がドキドキして、顔が熱い。握られた手首が熱い。

私の手を引いて歩く九条さんの歩みは速くなかったけど、迷いがなかった。

無言。

でも「来い」と命じられているような気持ちになった。背中がゾクゾクして震えるような感覚がした。

初めて味わう感覚だった。

見上げた背中が、同じ人なのにもっと大きく見える。

何も言わず、おとなしくついていった。

スリッパの音はほとんどしないはずなのに、耳に音が入ってくる。聴覚が過敏になっている。

私のゲストルームに行くのかと思ったら、違った。

九条さんが黙って天井まであるドアを開けた。

音はほとんどしなかった。

中は、ゲストルームよりもっと大きい部屋だった。

色合いはやっぱりダークカラー。賑やかさを全て排除した落ち着いた寒色系の部屋。

装飾や飾りが一切なく、部屋の余白が多い。

広い。

シーツ交換が大変そうなキングサイズのベッドが部屋の中央に置いてある。シーツの色もダーク系だ。でも黒じゃなくてグレーに近い。肌触りの良さそうなコットン素材。

ベッドがすごく大きいのに、ベッドの大きさを感じさせないくらい、部屋が広い。

こんなに圧迫感がない部屋なのに、何故か私の息は少し詰まった。

室内に入ったら、握られていた手首が離された。

背後で、九条さんがドアを閉めた。本当に僅かな、静かな音だった。

でもその音は、私がもう逃げられないことの宣告のように、しっかりと耳に聞こえた。

境界の夜

ドアが閉まると、ドアは壁のように道を塞いだ。

元々静かだった部屋の静音性が更に高まったような気がする。

多分、部屋の外には音もほとんど漏れないか、全く聞こえないんじゃないか。

「…脱げ」

明確に“命令”だった。

反論も抵抗も許さない。この空間の主導権は自分が握る。そういう意思があった。

着ていたパジャマのボタンに手をかけたら、震えていた。

使い慣れているパジャマなのに、手に力が入らない。ゆっくり外していたら、九条さんが「遅い」と口に出さずに手を伸ばしてきた。

1つ、2つとボタンが外されていく。

その時、急に浮上するように思い出したことがあった。

「…あ、待って…っ」

「待たない」

「違うの…っ」

逃げようとしてるんじゃない。やめてほしいわけじゃない。

「私ここに戻ってくるまでに買ってきたの……避妊具……」

最後の方はちょっと小さい声になった。もういい大人なのに、何を恥ずかしがってるんだと思われるかもしれない。

恥ずかしがってるんじゃない。女が自分で買ったことでどう思われるかを気にしてしまってるだけだ。

自分ではなんとも思ってなくても、相手もそうとは限らない。

でも避妊なしでするなんて絶対嫌だ。そんな人だったら本気で泣いてしまう。

 

手が止まった。

 

「……よく言った」

なんか、褒められた。

いや私もう大人だし…。

「…取ってきてもいい?」

「…行け」

寝室のドアを開けて、ゲストルームに急いだ。我ながら緊張感が無さすぎて泣けてくる。

こういうのってどうしたらスマートに出来るのか。

でもスマートさや空気よりも「安全」を最優先にしたい。本当は、避妊方法の中では確率がもっとも低いのは知ってる。でも絶対にあった方が良い。

ゲストルームに置いてある自分のハンドバッグから、さっきドラッグストアで購入した物を取り出した。店員さんが、中身が見えない袋に入れてくれたもの。包装を開けて、中身を取り出して寝室に戻った。

再開

ドアを開けたら、九条さんはベッドに腰掛けていた。

やっぱり、この部屋だけ空気が違う。

目線だけこちらに向けてきたけど、視線の強さに足を止めそうになった。

睨まれてるわけじゃない。でも瞳の力が強い。

この目に見られたら、従いたくなってしまう、不思議な目。

ゆっくり歩いて近付いていった。

手に持っていた箱をナイトテーブルの上に置いた。真っ黒でマットな箱。狙ったわけじゃないけど、この部屋に馴染む。

箱から手を離して、九条さんと視線を合わせる。

 

…次、どうしたらいい?

 

無言でそう尋ねるけど、とくに返事も反応も無い。

その代わり視線が私の顔から、服へ移動する。

さっき途中まで外したボタン。

 

自分で脱げ、と言う意味だ。

命令を出すのに、言葉すら使わない。

これは省エネじゃない。動きを見てる。

 

視線を合わせたまま、ボタンに手を掛けた。

まだ手が震えてる。この空気に気圧されている。

でも目が逸らせない。

服を脱ぐことなんて毎日やってるのに、緊張する。顔が熱い。

手元を見ないと上手くボタンが外せない。

そう思って目を伏せたら、胸元のボタンに手が伸びて来た。

触れた指先は冷たくない。強くもない。

淡々とした動きでボタンを外していく。

 

ー慣れている。

 

もう自分で脱ぐのは諦めて、彼の手に任せた。

服を全て床に落とされて、身体を守るものはなくなった。

全身が視線に晒される。

手がそっと頬に触れて来た。

指先で輪郭をなぞっていく繊細な動き。

ちょっとくすぐったくて、でも気持ちいい。

指が首筋にゆっくり移動していく。

体の内側の体温を感じ取るような動き。

 

ー何を考えながら触れてるんだろう…。

 

首元に回された左手で、ゆっくり引き寄せられる。

太ももの間に立たされて、九条さんは座ったまま見上げてくる。

右手は太ももに触れてる。強くないのに、力のある手で、私の立ち位置を前へ誘導する。

左手が後頭部に回り、指が髪の中へゆっくりと沈んでいく。

急いてる動きじゃない。でも、逃げられない。

唇が触れる瞬間、一瞬ためらった。私の呼吸が震えて、キスが浅くなった。

直後、右手が背中に回された。口が合わさるだけだったキスがだんだん深くなっていく。

舌が絡まり、息が少しずつ上がっていく。

さっきお風呂上がりに歯磨きしたから、ミントの味がする。

九条さんも待ってる間に済ませてたみたい。

口の中がスースーするのに、熱い。
冷たいはずの味なのに、触れるたびに火照りが増していく。

息継ぎのために少し体を引こうとしたら、首筋に回された左手が僅かに力を込めて、動かないように固定された。

喉が、小さく音を鳴らす。九条さんの肩に手を置いて、また口を開けて、舌を迎え入れた。

二人とも、呼吸の熱が上がっていく。音が水分を含んで濡れていく。耳が犯されていく。

心臓がずっと早鐘を打っている。

長いキスが終わった時、足元から力が抜けた。胸元に引き寄せられて、膝立ちで膝の間に収まる。

息が完全に上がっていた。力が入らない。目が潤む。

息を整えるために、空気を吸った。

でもその空気は針のように張り詰めていた。

⚠️ この先の内容はR18となるため、BOOTHで有料掲載しています。 本編を知らない方でも、ここまでで一旦物語の流れは区切れますので、読まずに次の「翌朝のシーン」へ進んでも問題ありません。

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URB製作室

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