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79.いざ、仮縫いへ
ロンドンの朝 うっすらと明るくなってきた天井を見上げて、澪はゆっくりと目を開けた。 深く眠っていたはずなのに、寒さと微かな明るさにふと目が覚めた。 窓の向こうは、まだ本格的に日は昇っていない。 時刻は、たぶん朝の七時前後。ロンドンの... -
78.The Savoy
車内 車は静かに動き出し、ロンドン中心部へと向かう。 暖房の効いた後部座席に身を預けながら、澪はふと前方を見た。 「氷川さん……機内、ちゃんと眠れました? お疲れじゃないですか?」 運転席の背中越しに声をかけると、ルームミラー越しに柔らかな目... -
77.離陸
機内食 離陸からしばらくして、シートベルト着用サインが消えると、機内が少しだけ静まり返った。 空の上とは思えないほど穏やかな滑空に揺られていると、ふわりと漂う香ばしい匂いが、澪の鼻先をかすめる。 「お食事の準備が整いました」フライトアテンダ... -
76.空港
待ち合わせ スーツケースを引き、澪は足元を見ながら歩いていた。 スマホで九条との待ち合わせ場所を確認しつつ、ハンドバッグの中にそっと手を入れる。中には、焼いたロッククッキー。緩衝材代わりに入れた柔らかいタオルの奥に、ぎゅっと隠すように詰め... -
75.バレンタイン
事後報告 レオンがキッチンから顔を出す。 「澪さん、明日も出勤?」 「んーん、リモート!」 澪はピースして笑う。 「夜は空港まで自分で行くから、待ち合わせで!」 「……あ、そうだ」 レオンが何かを思い出したように声を上げた。 「九条さん、チームメ... -
74.旅への準備
私怨 コートの端で、蓮見がぜえぜえと肩で息をしながら倒れ込んでいた。 一方、ボールを打ち尽くしてもなお険しい表情のまま、九条はラケットを肩に担ぐ。 「……くだらないことを言ってないで、練習再開だ」 その声は低く、まったく熱を帯びていない。 けれ... -
73.真相
合点 「……ってことは、執事服の仮縫いのためにイギリスに行くと。そのままドバイ入りするから、移動の回数を減らすために全員移動する、と」 志水は、淡々と状況を整理するように呟いた。 氷川は何も言わなかったが、それが“正解”であることは、否定しない... -
72.混沌の会場
離れる時が近い ベッドの中。部屋は暗く、カーテンの隙間からビルの明かりだけが差し込んでいる。 九条は仰向けに寝て、澪はその胸に頬を寄せたまま、耳を澄ませていた。 呼吸の音、心臓の音、それだけがすぐそばにある夜。 「……今日、楽しかった」 「そう... -
71.大きなプレゼント計画
帰宅 レオンがキッチンで包丁を動かす中、九条はソファに深く腰を下ろした。 その隣、やや控えるように氷川が立っている。 本来、彼がこの空間まで上がってくることはない。 だが今夜は九条から「少し話がある」と言われ、そのまま一緒にエレベーターに乗... -
70.2月12日(水)
寝る前に 部屋の灯りを落としてから、まだ数分。 九条はシャワーを浴びて戻ってきたばかりで、髪の先に水滴を残したまま、無言でベッドに入る。 澪はすでに布団に包まっていたが、九条が隣に入ると、その存在だけで温度が変わるのがわかる。 すっと背後か...