序章– category –
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6.終わりの章|“終わった。けど、それは本当に“終わり”だった?”
澪の手元から離れた記録 モナコへの輸送完了を知らせる連絡は、予定より2日早く届いた。 添付された写真には、朝焼けの空と港の輪郭、そして静かに停泊するSunreef 50の後ろ姿。 背景には、澪が何度も資料で見てきた港の名が記されていた。 Port Hercule. ... -
5.確証の章|“一度も会ってないのに、目を合わせた気がした。”
最終確認通話 FaceTimeの画面が切り替わる。 相手のカメラは、今回もオフのまま。 澪の映像だけが、そこに映っていた。 いつもの通り。何も変わらないはずの時間。 「こんばんは。綾瀬です。本日は最終仕様のご確認を――」 「画面、見えてる」 九条の声は、... -
4.距離の章|“不思議と、こっちの顔を映したくなる瞬間があった。”
3度目のFaceTime、明るい午後 三度目の通話は、週明けの午後に設定された。 場所は職場の会議室。カメラはオン。澪の顔は、淡い光を浴びながら画面に映っていた。 ウィンドウ越しの海は穏やかで、カモメの鳴き声がかすかにマイクに拾われた。 通話の数分前... -
3. 選定の章|“それが“良い”か“悪い”かも、私はもう尋ねなかった。”
サンプル動画と、15秒の既読表示 週明け、澪は新しい資料をメールに添付して送った。 Sunreef 50の内装例をまとめた参考動画と、素材の組み合わせリスト。 動画は、実際の完成艇を3パターン、内装中心に撮影したもので、合計45秒。 どれも、現行モデルで実... -
2. 設計の章|“返事の隙間に、ため息すら見えなかった。”
設計要望書が届いた日 初回の通話から、ちょうど3日後。 澪のもとに、再びメールが届いた。 動線はミニマルで。 ギャレーは右舷、L字型。 キャビン数は減らして、ひとつを広く。 クローズな空間より、明るさと開放感を。 色は寒色系で統一。 利用者は一人... -
1.「契約の章|“名前だけが、目の前にあった。”」
1. 12月上旬、ファーストコンタクト ― 問い合わせメールの署名にあったのは、ただ一行の名前だけだった。 そのメールは、朝9時すぎに届いた。 件名に船種名とモデル番号が記されていて、添付ファイルにはプレゼン資料のダウンロードリンク、本文はたった三...
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