10.【Australian Open 2025】2nd round , 1st set “処理対象B” / Target B

再起動は不要

#チーム九条 / オーストラリア2025
蓮見 10:32 AM
……ベンチでずっとラケット撫でてる。
呼ばれても目線すら上げない。
志水 10:33 AM
心拍数、スタンバイ中なのに下がってる。
普通じゃないよこれ……むしろ“入ってる”状態。
氷川 10:33 AM
表情も動作も“待ってる”じゃない。“処理中”って感じ。
これ、もう入場時から試合始まってる。
※Slackはスマートグラス経由の音声入力で送信されています。

Margaret Court Arena / Day Match

オーストラリア・メルボルンパークにあるマーガレット・コート・アリーナは、全豪オープンで使用されるメイン3会場のひとつだ。

ロッド・レーバー・アリーナに次ぐ規模を持ちながら、屋根の開閉機能を備え、晴天時には自然光が美しく射し込む構造となっている。

観客席とコートの距離が近く、選手の息遣いまでも伝わる——そんな**“臨場感”**が、このアリーナの最大の特徴だ。

午後の陽射しが、屋根の隙間から斜めに差し込んでいる。

青い空と白いスタンド。コートに落ちる影はまだ浅い。

【第1ゲーム】試合開始の合図

午後の陽射しが、屋根の隙間からコートに射し込んでいた。

九条は、ベンチの端に静かに座り、一本目のラケットを手に取る。

指先で、張り詰めたガットを一度だけ撫でる。

それが、彼にとっての「試合開始の合図」だった。

名前を呼ばれても、返事はない。

立ち上がることすら、相手の動きよりも“遅く”見える。

——だが、それは誤解だ。

九条雅臣の演算は、もうすでに始まっている。

#チーム九条 / オーストラリア2025
蓮見 11:02 AM
ラケットの撫で方、今日も同じだな。
あれ、たぶんスイッチ入るサイン。
志水 11:03 AM
心拍も静か。
まだ完全に“無風”。
※Slackはスマートグラス経由の音声入力で送信されています。

マーガレット・コート・アリーナ。

午後の光が斜めに差し込む。

観客のざわめきが、まだ“スポーツの空気”をまとっていた。

九条は、ベースラインに立った。

ラケットを構える動きに、無駄がない。

1本目。

センターへ、フラット。

音がした瞬間、終わっていた。

打球音と同時に、相手のラケットは空を切る。

15–0。

2本目。

今度はスライス。

低く、沈む。

相手が前に出るが、届かない。

30–0。

3本目。

わずかにテンポを変えたボール。

相手が反応し、触れる。

だが、リターンは甘い。

九条は、一歩前へ。

ラケットを振り抜く。

クロスに叩き込まれたボールは、ライン際で跳ねることなく沈んだ。

40–0。

4本目。

ボールを3つ受け取り、2つを後ろに捨てる。

選ばれた1球を、ゆっくりと持ち直す。

目線すら動かさない。

——打つ。

ネットの白帯すれすれに滑るボール。

相手は足をもつれさせ、ラケットのフレームに当てる。

ボールは浮き、そのままネットに落ちた。

Game Kujo.

観客の拍手も、どこか遠い。

まるで誰もが、「まだ始まっていない」と思っているようだった。

だが、その“錯覚”こそが——

九条雅臣の“演算”の始まりだった。

【第2ゲーム】静音ブレイク

1本目。

相手がトスを上げる。

九条は、構えを崩さずに見上げる。

——スイングの癖、肘の位置、軌道の予測。

情報が、頭の中で一瞬にして組み立てられる。

サーブはセンター。

速く、伸びる球。

だが——九条は、ほとんど動かずにその場でリターン。

クロスへ、低く沈む弾道。

相手のスイングが間に合わず、ネット。

0-15。

観客席に、わずかなざわめきが走る。

開始10秒足らずの静寂のあとに生まれた、最初の“音”だった。

2本目。

今度はスライス気味に外へ逃がすサーブ。

だが、九条は読みきっていた。

一歩横に滑るだけで、リターンはベースラインすれすれに落ちる。

相手はフォアに回り込むが、体勢が崩れる。

ストレートへの逆襲は、わずかにラインを割った。

0-30。

静かに、確実に。

試合は“削られはじめて”いた。

3本目。

焦りを隠せない相手が強打に出る。

だが、スイングの軌道が早い。インパクトがズレて、リターンが浅くなる。

九条はベースライン内側へとステップイン。

——そして、一切の余裕を見せずに叩き込んだ。

鋭いクロス。

ラインの内側にわずかに着地し、ボールは跳ねずに消えた。

0-40。

3本連続のブレイクポイント。

だが、九条の表情に変化はない。

4本目。

セカンドサーブ。

相手がわずかにラケットを握り直した、その瞬間。

九条の足が、音もなく前に出た。

インパクト直後のボールに合わせ、ライジングでリターン。

ドロップに近い軌道。

ネット際に落ちたボールに、相手の足は届かなかった。

——Game Kujo.

開始から2分も経たずに、ブレイク。

そのまま、無言のまま自陣へと戻っていく。

マーガレット・コート・アリーナに、また“静けさ”が戻った。

#チーム九条 / オーストラリア2025
氷川 11:10 AM
もう相手、呼吸のリズム乱れてきてる。
蓮見 11:10 AM
まだ2ゲーム目だぞ。……ヤバい。
※Slackはスマートグラス経由の音声入力で送信されています。

【第3ゲーム】再現性

ベースラインに立つ九条の動きは、あまりにも“静か”だった。

観客はまだ、第2ゲームの余韻を引きずっている。

だが、本人にとってはもう「前の情報」だ。

1本目。

打球前のモーションに、一切の“演出”がない。

ただ、正確に動作が積み上げられていく。

センターへのフラットサーブ。

時速210キロの球が、ほとんど伸びを感じさせない直線で飛ぶ。

相手はかろうじて反応するが、フレームに当たり大きく弾かれる。

15-0。

2本目。

今度はワイドへ。

スピンが強くかかっていて、外へ大きく逃げていく。

相手は逆を突かれた形で踏み出すが、バランスを崩しリターンはネット。

30-0。

観客席が少しだけ騒がしくなる。

ただし、それは“驚き”よりも“理解の範囲内”といった反応だった。

3本目。

九条は、ボールを3つ受け取る。

2つを無言でベンチ側に弾き、ひとつを選ぶ。

その選球すら、演算の一部。

構えを取った九条の眼差しは、ネットの向こうではなく「内側」にあった。

自分の身体の精度、そのわずかな揺らぎの検出に集中している。

そして打つ。

スライスサーブ。

低く滑るような軌道で、バウンド後に急激に沈む。

相手の足が止まり、タイミングを外された返球は大きく浮く。

九条は無言で前に出て、軽くクロスへ打ち抜いた。

40-0。

4本目。

わずかに構え直し、次の1球を選ぶ。

一拍だけ、深呼吸。

そして、

ノーバウンドで叩くように、フラットをセンターへ。

相手の動きより先に、ボールがライン上で音を立てた。

——Game Kujo.

まだ、九条は一言も発していない。

表情も変わらない。

マーガレット・コート・アリーナには、

また一層深い“無音”が降りた。

【第4ゲーム】読解

マーガレット・コート・アリーナの午後は、まだ陽射しが柔らかい。

だが、コートの空気には徐々に“異変”が生まれはじめていた。

第4ゲーム、相手のサービスゲーム。

1本目。

センターを狙ったフラットサーブ。

速度は出ていた——が、九条は一歩も動かず、ラケットを差し出すだけで返した。

球は鋭くクロスへ沈む。

0-15。

相手の足が、わずかに止まる。

2本目。

今度はワイドへ。だが、九条の読みが早かった。

ライジングで捕らえたリターンが直線でベースラインを割る。

0-30。

ベンチから立ち上がった蓮見の指先が、無意識にジャケットの裾を摘む。

3本目。

相手はリズムを変える。

ゆるいスライスでタイミングを外そうとしたが——

九条はすでに踏み込んでいた。

ネットすれすれの打球が、ショートクロスへ。

相手の足が止まり、動き出す前に——ポイントは決まった。

0-40。

スタジアムが静まり返る。

“He’s reading everything…”
(全部読まれてる……)

そして4本目。

震えた手元から放たれたセカンドサーブは、インパクトでわずかにズレた。

ボールはスピンがかかりすぎ、ラインを割る。

Game Kujo.

スコア:4-0(Kujoリード)

コートに、風はなかった。

だが、なにかが確実に“狂い始めて”いた。

【第6ゲーム】予定動作

九条のサービスゲーム。

マーガレット・コート・アリーナの屋根から射す光が、彼の影を長く落とす。

その姿は、まるで“演算を実行するシステム”のようだった。

1本目。

センター。

音もなく踏み込んだサーブは、ライン上を正確に貫く。

相手のラケットが動いた時、球はすでに通り過ぎていた。

“Did he even move?”
(今……動いたか?)

2本目。

今度はスピードを少し落とし、外へ逃げるサーブ。

打点がズレた相手のリターンは、フレームに当たって大きく跳ねた。

30-0。

3本目。

九条は、ボールを3つ受け取る。

無言で2つを弾き、選んだ1球をしばらく指で転がす。

そして打ち出したのは、極端なスライス。

バウンド後に沈む球に、相手はタイミングを外され、ネット。

40-0。

試合は、まだ始まって10分余り。

だが、空気は異様に“整いすぎて”いた。

4本目。

ラケットの軌道は、なめらかで、何の抵抗もなかった。

まるで「予定されていた動作」のように。

返球は甘く浮いた。

九条は、一歩も動かずにラケットを振る。

ショートクロス。ラインぎりぎり。

Game Kujo.

スコア:6-0。

“He hasn’t missed a single shot.”
(彼は、まだ一球もミスしていない)

“No waste. No emotion.”
(無駄がない。感情もない)

“Just… shutdown.”
(まさに……シャットダウンだ)

相手の手がわずかに震えている。

それを、九条は見ていない——にも関わらず、知っていた。

それは「勝っている者の姿」ではなく、

ただ“次の演算が始まった者”の動きだった。

った。

第1セット 6 – 0 九条雅臣
#チーム九条 / オーストラリア2025
志水 10:51 AM
セットポイントの直前も心拍変わってない。 ……処理対象としか見てないな、あれ。
氷川 10:51 AM
“再起動”じゃない。 最初から、止まってなかっただけだ。
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URB製作室

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