2025年– date –
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9.After Victory, Silence
夕陽が沈みかけた頃、センターコートはようやく静けさを取り戻していた。 試合の熱気はすでに消え、観客も報道陣も去った後。 そこに残されていたのは、コート脇の一脚のベンチだけだった。 乾いた風が、青いベンチの表面を撫でていく。 さきほどまで、そ... -
8.【Australian Open 2025】1st round , 3rd set「シャットダウン」
「止まらない支配」 第2セットが終わった瞬間、スコアボードには「6-0」の文字が並び、観客席からようやく拍手が広がった。 だが、そのざわめきすらも、九条雅臣の足を止める理由にはならない。 彼はベンチに戻らない。 タオルにも、水にも、視線を送らな... -
7.【Australian Open 2025】1st round , 2nd set「無響室の王」
“無”の時間 ベンチに腰を下ろした九条雅臣は、タオルを取ることすらしなかった。 冷却も、補給も、排除するように。 まるで“次”が始まるのを、既に知っていたかのように。 その眼差しは、何も見ていない。 だが、何もかもを見ていた。 観客のざわめき、実... -
6【Australian Open 2025】1st round , 1st set 「王の演算」
【第1ゲーム】王が放った、一球目の答え 重く、低い音がコートに沈んだ。 白線すれすれに滑り込んだサーブは、相手のラケットに触れることなくバックフェンスへ跳ね返る。センターライン、イン。サービスエース。 ラインジャッジの声が響く前に、九条雅臣... -
5.【Australian Open 2025】 “起動/BOOT SEQUENCE”
メルボルン、静寂の朝 静かな、乾いた風が吹いていた。 メルボルンの空は、日本よりもどこか広く感じられる。高層ビルが密集していないせいかもしれない。朝の陽光は強く、濃い影が地面に落ちている。 九条雅臣は、ホテルから会場までの車内で一言も話さな... -
4.メルボルンの朝 ― 世界の空気の中で
メルボルン。南半球の夏は、日本の冬と反比例するように容赦なく熱を孕んでいた。 空は青いのではなく、「透けている」ような薄さだった。雲ひとつないその空から、強烈な光がコートを白く焦がしていた。空気は乾いて軽く、皮膚の表面に火照るような痛みを... -
3.メールのやり取り 第二弾
From: 九条 雅臣 To: 綾瀬 澪 Date: 2025年1月17日 08:30 Subject: 電源設備に関してのご相談 綾瀬様 おはようございます。 電源設備について一点、ご意見をいただけますでしょうか。 ディーゼル単体か、ソーラー併用かで検討しており、それぞれの運用面で...
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