| G10 | 0–1 九条 | 予測の先手 |
| G11 | 1–1 ヴェレル | 戦術変更の応酬 |
| G12 | 2–1 九条 | 構成の再調整 |
| G13 | 3–1 九条 | 静かなる支配再開 |
| G14 | 3–2 ヴェレル | ほころびへの兆候 |
| G15 | 4–2 九条 | 判断速度の優位 |
| G16 | 4–3 ヴェレル | 読みの乱れ |
| G17 | 5–3 九条 | 終盤への静かな傾き |
| G18 | 6–4 九条 | セット2 終了処理 |
予測の先手
G10｜予測の先手（Game Kujo 1–0）
ヴェレルは、すでに戦術を“ずらし”始めていた。
配球のパターン、テンポの組み立て、スタンスの初期位置。
すべてが、わずかに変わっている。
だが――
九条雅臣は、それを受け取らなかった。
まるで、相手が“変化”を起こすことを先に受け入れていたかのように。
球筋を変えても、速度をずらしても、九条の返球は同じ質量で返る。
„Er war schon dort.“
（彼はもう、そこにいた）
0–15。
ヴェレルはリズムを崩さない。だが、内心では焦りが始まっていた。
“戦術の有効性”が評価される前に、既に対処が完了している。
それは、「読まれた」のではなく――**“予定されていた”**という感覚。
30–30。
ラリーが続くたび、違和感が確信に近づいていく。
（彼は、変化そのものを予測していた）
40–30。
ヴェレルの1stサーブは入った。だが返球された瞬間、
コースが完全に読まれていたことを知る。
Game, Kujo.
観客の拍手は、ごくわずか。
静寂が続く。
そして、ヴェレルは心の中で呟いた。
„Er ändert nichts. Weil er alles kennt.“
（彼は何も変えない。すべてを知っているからだ）
戦術変更の応酬
G11｜戦術変更の応酬（Game Werell 1–1）
セバスチャン・ヴェレルは、“変化を重ねる”ことを選んだ。
それはもはや戦術というより、思考の上書きに近かった。
配球の選択肢をさらに増やし、スライスの角度を微妙に変える。
攻撃の意図を“瞬間単位”で変化させていくことで、相手に計算の余地を与えない。
（読まれる前に、次のカードを切る）
15–0。
次のポイントは、テンポを落としたサーブからネット際に詰めた。
九条はボールに触れたが、それはリターンとして成立しない。
30–0。
観客が、わずかにどよめいた。
ヴェレルのラケットから出た球が、初めて九条の“処理時間”を揺らしたのだ。
だが、その次のポイント。
九条は、先ほどの軌道とほぼ同じ球を今度は逆手に取る。
動きは速くない。だが、タイミングが完璧だった。
„Er passt sich nicht an. Er spiegelt nicht. Er schneidet.“
（彼は適応しない。模倣しない。ただ、切断する）
30–15。
それでもヴェレルは引かない。
変化は“崩し”ではなく“揺らし”のためにある。
40–15。
最後は高い打点からのフラット。
球威ではなく、コースの正確さで仕留めた。
Game, Werell.
彼はようやく、**“1ゲームを取った”**という実感を得た。
だが、九条の目は何も変わらない。
まるで、「予定通りだ」とでも言いたげな静けさだった。
構成の再調整
G12｜構成の再調整（Game Kujo 2–1）
九条雅臣の動きに、“変化”はなかった。
しかし、ヴェレルには――確かに質が違って見えた。
返球が、速いわけではない。
打点も、ラケットの軌道も、まるで以前と同じ。
だが、“読み切った後”のプレーに、余白が生まれている。
（……効いてない、ということか）
0–15。
ヴェレルはコースを先に読んで動いた。
だが、九条の球は1テンポ遅れて出された“意図的な反対球”だった。
15–15。
九条のサーブはスピードを落としたセカンド系。
だが、ヴェレルの返球がわずかに浮いたところに、冷徹なドライブが刺さる。
„Er wartet nicht. Er hat es vorbereitet.“
（彼は“待っている”んじゃない。準備済みなんだ）
30–15。
レシーブは入った。ラリーも続いた。
だが、九条は反応ではなく“完了”された操作のように処理していく。
40–15。
最後は、静かに落とすようなスライス。
ヴェレルは追いつくが、ラケット面がブレた。
Game, Kujo.
観客は拍手を送る。
だがそれは、「すごい！」というよりも――
「もう、止まらないかもしれない」という不安混じりの評価だった。
静かなる支配再開
G13｜静かなる支配再開（Game Kujo 3–1）
セバスチャン・ヴェレルは気づき始めていた。
“ズレている”のは、自分の方だということに。
試合の構造自体は、まだ対等に見える。
だが、九条雅臣のプレーは――対等の前提を必要としていない。
（この人は、“駆け引き”をしていない）
0–15。
ヴェレルのショットが深く入る。だが、九条はひとつも慌てない。
打球を“受ける”のではなく、受ける前に処理が終わっている。
15–15。
サーブ＆ボレーで前に出たが、九条の返球はまるで機械の軌道。
わずかな足の動きと肩の開きだけで、ラケットがボールを切る。
„Er braucht kein System. Er ist das System.“
（彼はシステムを必要としない。彼自身が、システムだ）
15–30、15–40。
九条は一度も「試す」ことをしていない。
すべての返球は、“正解”そのもの。
最後の1球。
ヴェレルがリスクを取って放った逆クロスを、九条は読んでいた。
滑り込むようなフットワークで、完璧なカウンター。
Game, Kujo.
拍手はもう、驚きではなく“納得”になっていた。
観客たちは、**「見てしまった」**という気配だけを残して、静かに息を呑んでいる。
ほころびへの兆候
G14｜ほころびへの兆候（Game Werell 3–2）
セバスチャン・ヴェレルは、自分の“構造”を再び疑い始めていた。
だが、それでも――まだ“壊れてはいない”。
（この1ゲームは、取り切る）
0–0。
彼は**「考えずに動く」ことを選んだ**。
判断を早めず、構造に委ねる。
九条の“無音”に対して、自分の中にある**“規律”**で立ち向かう。
15–0、30–0。
サーブの精度は戻っていた。
ラリーも、少しだけ長くなった。
だが、それは**“崩れを止めた”にすぎない**と彼自身が一番知っていた。
（まだ届いていない）
30–15。
1ポイントを失うと、また圧が迫ってくる。
それでも、止まらない。
「止まらなかった」という事実だけが、今の彼の支えだった。
„Ich bin nicht kaputt.“
（俺は、壊れていない）
40–15。
最後はセンターへの鋭いサーブ。
九条がラケットを出したが、わずかに届かない。
Game, Werell.
ほんのわずか、ヴェレルの肩が上下する。
だが観客は、それを**「持ち直した」とは見なさなかった。**
ただ、**“まだ戦っている”**という事実だけが、空気を静かに揺らしていた。
判断速度の優位
G15｜判断速度の優位（Game Kujo 4–2）
セバスチャン・ヴェレルは、
先ほどの1ゲームを「取り戻した」つもりでいた。
だが、九条雅臣は――戻る必要すらなかった。
0–0。
静かに始まるラリー。
だが、その中で起きているのは、**“判断”の速度の差”**だった。
ヴェレルがひとつの選択肢を組み立て、次を展開しようとするたび、
九条は“先”を削り落として返してくる。
（俺の動きが、まだ“生まれてない”うちに――）
15–0、30–0。
九条の動きは変わらない。
それでも、ラリーの“意味”は確実に変わっていた。
„Seine Entscheidungen brauchen keine Zeit.“
（彼の判断には、時間が要らない）
30–15。
ヴェレルが1本をもぎ取る。
攻めのコースが決まり、拍手が起きる。
だが、九条の顔は変わらない。
その1本すら、“誤差のうち”だと言わんばかりに。
40–15。
次のサーブはスライス。低く滑った球を、ヴェレルは拾えなかった。
Game, Kujo.
スコア、4–2。
観客席では、誰も声を上げない。
ただ、“精度”の前に沈黙するという空気が、再び広がっていた。G15｜判断速度の優位（Game Kujo 4–2）
セバスチャン・ヴェレルは、
先ほどの1ゲームを「取り戻した」つもりでいた。
だが、九条雅臣は――戻る必要すらなかった。
0–0。
静かに始まるラリー。
だが、その中で起きているのは、**“判断”の速度の差”**だった。
ヴェレルがひとつの選択肢を組み立て、次を展開しようとするたび、
九条は“先”を削り落として返してくる。
（俺の動きが、まだ“生まれてない”うちに――）
15–0、30–0。
九条の動きは変わらない。
それでも、ラリーの“意味”は確実に変わっていた。
„Seine Entscheidungen brauchen keine Zeit.“
（彼の判断には、時間が要らない）
30–15。
ヴェレルが1本をもぎ取る。
攻めのコースが決まり、拍手が起きる。
だが、九条の顔は変わらない。
その1本すら、“誤差のうち”だと言わんばかりに。
40–15。
次のサーブはスライス。低く滑った球を、ヴェレルは拾えなかった。
Game, Kujo.
スコア、4–2。
観客席では、誰も声を上げない。
ただ、“精度”の前に沈黙するという空気が、再び広がっていた。
読みの乱れ
G16｜読みの乱れ（Game Werell 4–3）
（……届くはずがないと思っていた）
セバスチャン・ヴェレルは、
その一球だけは――**“狙っていなかった”**と後に思い返すことになる。
0–0。
彼は、サーブの軌道を一段階ずらした。
意識したのは、“打点”ではなく“打点前”。
つまり――九条の読みの“初動”を外すこと。
そして、それはわずかに効いた。
15–0。
観客が久々に反応する。
静かな拍手と共に、九条が軽くラケットを見た。
（……読み切られていない？）
30–0、40–0。
ヴェレルは一瞬だけ、“可能性”という言葉を思い出す。
それは勝利の可能性ではない。
ただ、ゼロではない何か。
„Auch er kann irren.“
（あいつにも、読み違いはある）
その認識が、彼の背筋に熱を走らせた。
40–15。
九条が1本を取り返す。
だが、それは“圧”ではなかった。
そして次のポイント、ヴェレルは静かに、淡々とラリーを組み立てて取り切る。
Game, Werell.
少しだけ、観客の息が戻ってきていた。
だが――それでも空気は、**「一時的な誤差」**として、彼の1ゲームを受け止めていた。
終盤への静かな傾き
G17｜終盤への静かな傾き（Game Kujo 5–3）
（やはり“あれ”は例外だったのか）
セバスチャン・ヴェレルは、先ほどの1ゲームを奇跡とは思っていない。
だが、九条雅臣は――**「許容値内」**として処理していた。
0–0。
九条の動きは一切変わらない。
だが、ヴェレルにはそれが**“傾き”として見えるようになっていた。**
打点が前すぎるわけでもなく、球速が上がっているわけでもない。
それでも、試合の重心が九条側へ静かに傾いている。
15–0。
ヴェレルの足が一歩遅れた。
反応はしていた。読みも、外れていなかった。
（ただ、届かない）
30–0。
1stサーブがラインギリギリに入る。
ヴェレルは即座に対応するが、球の角度が意識の外だった。
„Er bringt kein Gewicht mit sich. Aber alles fällt zu ihm.“
（彼は何の重みも持たない。だが、すべてが彼に傾いていく）
40–15。
ヴェレルのリターンが浅くなった。
九条は迷わず、ネットに詰めることもなく――通常のストロークで決めた。
Game, Kujo.
セットスコアは5–3。
だが、この1ゲームでヴェレルが受けたものは、数値よりも重かった。
セット2 終了処理
G18｜セット2 終了処理（Game Kujo 6–4 / 2nd Set Kujo）
（まだ終わらせない）
セバスチャン・ヴェレルは、
このゲームに“最後”の意識を持ち込まないように努めた。
彼にとってそれは、“撤退”を意味するからだ。
だが――
九条雅臣は、もう“このセットを終えていた”。
0–15。
サーブはセンターへ。タイミングも球筋も正確だった。
だが九条のリターンは、意図すら感じさせない精度で返ってくる。
（これは……処理だ）
15–15。
ヴェレルはバックへ切り替える。
打点も高く、回転量も十分。
だが、返球されたボールは“受けたものをただ返した”わけではない。
**“意味を消された球”**だった。
30–30。
リズムが狂っていく。
それでも、ヴェレルは手を止めない。
意図、論理、展開。
それらすべてを詰め込んで――最後のサーブを打つ。
だが、九条はそれを予測すらせずに、自然なモーションで差し込んだ。
„Das war’s.“
（これで、終わりだ）
30–40（セットポイント）。
最後のラリー。
ヴェレルはすべてのコースを封じたつもりだった。
だが、九条のラケットが触れたその瞬間、
打球の“意味”だけが場内から消えた。
観客の拍手はない。
ただ、視線だけがネット越しに一点へ集まっている。
Game and 2nd Set, Kujo.
心拍・体温・表情変化、いずれも反応なし。
第3セットへ移行準備完了。
ヴェレルの変化、“全部読まれてた”な。
“終わりじゃなくて、完了”って空気。
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